「な・つ・ひ・さ・お」

精神障害者やアルコール依存などを抱える人びとが、北海道の地に共同生活と作業所<べてるの家>を営んでいる。その人々が、感じる被害妄想などを抱える共通点の頭文字をとった「な・つ・ひ・さ・お」は、「悩んでいる」「疲れている」「ひまで」「さびしい」「お金がない」か「おなかがすいた」を表した言葉、べてるの家の名言になっている。
 あるとき、悲しくも、べてるの家で患者どおしの殺人が起きた。しかし、被害者の家族は、加害者の親の苦しみを知っていて、葬儀に呼んだという。そして、そこに住むみんなの願いは、なんと「治りませんように」だった。現実の社会に戻りたくないという彼らの希望でもある。

 斉藤道雄(著)…みすず書房